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アドラー心理学(解説①)

このページでは、アドラー心理学の全体像について、簡単に解説いたしております。
一番上から読み進めていただいてもいいですし、長い文章を読むのが苦手な方は、コントから読み進めていただくのもよいと思います。
アドラー心理学の考え方を通じて、皆様の人生がより豊かなものとなりますことを、心より願っております。

目次

1.アドラー心理学の概要

アドラー心理学は、オーストリア出身のアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のことです。
アドラー心理学は、自然科学の考え方(因果律)をそのまま心理学にあてはめた従来の心理学とは異なり、「目的論」という独自のアプローチで、人間の思考や行動に関する理論体系を築き上げていることを特徴とします。
また、「相互尊敬」「相互信頼」に基づいた、「共同体感覚」を持つことこそが、アドラー心理学が最終的に目指すゴールです。 アドラー心理学の概要

2.アドラー心理学の五つの柱

アドラー心理学では、以下の五つの理論が提唱されています。

①自己決定性
②目的論
③全体論
④認知論
⑤対人関係論

いずれもアドラー心理学においてとても重要な考え方なので、詳しく見ていきましょう。

① 自己決定性

自分の人生における決定は、全て自分自身が行っているという考え方のことを、「自己決定性」と言います。
「親が、朝起こしてくれなかったから遅刻した。」
「親が教育に力を入れてくれなかったから、いいところに就職できない。」
などと、何かにつけて言い訳をする人がいますが、アドラー心理学では、自分の人生は自分で決定したものと考えるため、このような言い訳を完全に否定しています。

アドラー自身も、今までの過ごしてきた環境が性格や考え方に影響を与えること自体は認めていますが、アドラー心理学では、それらは影響に過ぎず、過去の環境が原因となって今の悪い結果になったわけではないと捉えます。アドラー心理学では、「出来事に対する非建設的な考え方や捉え方が決定因となって、自ら悪い結果を出している」と考えます。逆に言うと、出来事に対して建設的な考え方や捉え方をすることで、自ら良い結果を出すことが出来ます。

(例):第一志望の就職先の面接で落ちた場合
建設的な考え方の場合:
「自分にとって、もっといい会社を見つけるチャンスだ」
「面接のノウハウが蓄積されたから、次からはもっといい面接ができるはずだ」
非建設的な考え方の場合:
「大学の偏差値が低かったせいだ…」
「もう、就職活動なんてしたくない…」

建設的な考え方を採用することによって、未来に向けて前進する活力が湧きます。逆に非建設的な考え方を採用すると、未来に対する意欲が低下します。どちらを選ぶかはあくまでも自己の決定次第です。あなたはどちらを選びますか?
自己決定性

② 目的論

人間が行動をする際には、必ず何かの目的があり、その目的に沿った行動をするという考え方を、「目的論」と呼びます。アドラーは、従来の心理学とは全く異なるアプローチで人間の行動を捉えました。

アドラーと並ぶ三大心理学者の一人であるフロイトは、「原因論」を唱えました。 「原因論」とは、人間の行動には必ず原因があるとするものです。
「引きこもりになったのは、過去にいじめに遭ったからだ」であったり、「暴力的になったのは、親が暴力的だったからだ」などと考えるのが「原因論」です。

一見すると尤もらしい理論ですが、過去の原因を探ったところで、未来における解決策にはなりません。また、同じいじめにあった人でも、引きこもりになる人もいれば、ならない人もいます。そのようなこともあり、アドラーはこの原因論を否定し、「目的論」を唱えました。

「目的論」では、人間の行動は、未来の目的によって決定されていると考えます。先ほどの、「引きこもりになったのは、過去にいじめに遭ったからだ」という例の場合、アドラー心理学では、引きこもることによって享受できるメリットが「目的」であると考えます。例えば、引きこもることによって、親が自分に注目してくれる、社会に出て他者と関わらなくて済むなどの「目的」があり、その「目的」を達成するために、引きこもるという選択をしていると考えます。

他にも例を挙げます。従来の心理学では、過去に恋人に振られた経験がある人が新たな恋愛に踏み出せないと悩んだ場合、過去の恋愛の失敗が原因だと考えます。しかし、アドラー心理学では、新たな恋愛をして、振られて傷つきたくないなどの「目的」のために、新たな恋愛に踏み出さないと考えます。

また、アドラー心理学では、「怒る」や「泣く」といった感情も、「目的」のために使用していると考えます。親が、子供の成績が悪かったことに対して怒る場合、子供を支配・コントロールしたいという「目的」を達成するために、怒りという感情を利用していると考えます。子供に対して怒っている最中に、大切な得意先から電話があった場合、丁重に対応しますよね。もし怒りで感情が抑えきれないのであれば、得意先との対応の際も、怒ったままの状態で対応するはずです。

このように、アドラー心理学を学べば、人間は未来の目的を達成するために、都合の良い原因を作り出して利用していることの多さに気が付くと思いますよ。
目的論

③ 全体論

「意識と無意識」「理性と感情」「心と身体」などは、相反するものとして語られることがよくあります。心の中の矛盾や対立をアピールするわけですが、このように人間を細かく個々の要素に分解して考えていくことを、「要素還元論」といいます。

一方、アドラーは、この要素還元論を否定し、「全体論」を唱えています。「全体論」とは、人間の要素である「意識と無意識」「理性と感情」「心と身体」などは、相反するものではなく、分割不可能なものであり、お互いに補い合う相補的なものだと考える理論です。

よく、「理性では分かっているけど感情が抑えきれない」や、「無意識のうちにやってしまった」などの言い訳をする人がいますが、アドラー心理学では、このような言い訳を完全に否定しています。なぜなら、理性と感情や、意識と無意識は、お互いに補い合う相補的なものと考えるからです。

全体論の例を挙げます。何か達成したい目標があり、それに打ち込んでいると、ある時にふとアイデアが思い浮かぶのは、意識と無意識が補い合っている例です。また、人付き合いを円滑にするために、感情を使って相手に共感し、理性を使って適切な言葉や態度を取るのは、理性と感情が補い合っている例です。

このように、「全体論」で考えると、「分かってはいるけれど、出来ない」といった言い訳は出来なくなります。しかし、だからこそ、「自分を変えたい」と思えば変えられる余地があるのです。
全体論

④ 認知論

人が物事を判断する時は、各々が、自分自身の主観的な意味づけをして物事を把握します。このことを、「認知論」と呼びます。よく「客観的に物事を見る」などといいますが、いくら自分が客観的に物事を見ていると思ったとしても、あくまでもその人が意味づけした主観に過ぎないということです。

よく使用される例として、水が半分入ったコップがあるとします。そのコップを見て、「水が半分入っている」と解釈する人もいれば、「水が半分無くなっている」と解釈する人もいます。
他にも例を挙げます。仕事でミスをしてしまった場合に、「自分はダメな人間だ」と解釈する人もいれば、「失敗は誰にでもある」と解釈する人もいます。また、「この失敗が今後の成功の糧になる」と解釈する人もいます。
このように、全く同じ物事でも、人によって意味づけや解釈は千差万別です。

また、認知論に関連する用語として、個人が持つ、その人特有の物の見方や価値観のことを、「私的論理」と言います。「私的論理」は、その人特有の色眼鏡のようなもので、人間は、その色眼鏡を通して物事を判断しています。

私的論理自体は誰しもが持っているものですが、その中でも、特に歪んだ発想で、周囲の人と摩擦を起こしてしまうような考え方を、「ベイシック・ミステイクス」と呼びます。ベイシック・ミステイクスには、以下のような種類があります。

①決めつけ: 相手の行動や発言から、自分の思い込みや偏見に基づいて、相手の気持ちや考えを勝手に決めつけてしまうこと。
②誇張: 物事の解釈を拡大して、大げさに捉えること。
③見落とし: 物事や出来事の一部の面だけを見て、大事な側面を見落とすこと。
④過度の一般化: 特定の現象を、全般に当てはめること。
1つのことに対して失敗したり、上手くいかなかったりすると、すべてが失敗する、すべてがうまくいかないというように、過度に一般化してしまうこと。
⑤誤った価値観: 理不尽で非論理的な価値観で物事を捉えること。

部下が、出社時間に遅刻してきた場合のベイシック・ミステイクスの例を考えてみましょう。
①決めつけ:遅刻したのは、仕事に対する意欲が低いからだ!
⇒実際には、電車遅延などのやむを得ない理由があったかも知れません。

②誇張:一分の遅刻も、一時間の遅刻も、遅刻という観点から見ると本質的には同じだ!一分の遅刻は一時間の遅刻に等しいと思え!
⇒大げさに捉えすぎです。

③見落とし:遅刻するようなダメな人間には、いいところなんて何もない!
⇒部下には、きっとたくさんの長所があるはずです。

④過度の一般化:出社時間に遅刻するということは、仕事の納期も守らないに違いない。プライベートでも遅刻ばっかりしているに違いない。
⇒仕事の納期やプライベートの時間はしっかり守るかも知れません。出社時間も、守っている日の方が多いはずです。

⑤誤った価値観:遅刻するようなやつは人間失格だ!
⇒これは理不尽な暴言です。

例を見て分かるように、「ベイシック・ミステイクス」に陥ると、周囲との摩擦を引き起こしてしまいます。そうならないためにも、普段から、建設的で健全な物事の捉え方をするように心がけていきたいところですね。
認知論

⑤ 対人関係論

人間のあらゆる行動・感情には、相手役が存在すると考えるのが「対人関係論」です。相手を理解しようとするときに、相手の心を読もうとしてもなかなか読むことは出来ませんが、相手の対人関係を観察することによって、相手を理解することが出来ます。

皆さんも、親や友人とは気軽に話せるけど、上司と話す場合は緊張して上手く話せないといったことはないでしょうか。このように、人は誰しも、相手によって感情や振る舞いが変わります。
誰に対しても丁寧な言葉づかいで話す人は、人に上下を作らず、どんな人に対しても敬意を持って接するような人だと判断できますし、上司に対しては媚びへつらうものの、部下に対して厳しく当たるような人は、人に上下を作り、下と見ている人に対しては敬意を示さない人であると判断できます。

相手を観察する時に重要なのは、その行動や発言にどのような「目的」があるかです。「社会に貢献したい」「相手に幸せになってほしい」「自分に注目してほしい」「相手を支配・コントロールしたい」など、人は、様々な目的を持って行動しています。その目的を見ることで、その人がどのような場面でどのような行動をする人間であるかを、判断することが出来るのです。
対人関係論

3.コント

下記ページにて、アドラー心理学をコントで解説しております。是非ともご覧ください。
・コント(自己決定性・目的論)
・コント(全体論・認知論)
・コント(対人関係論・勇気づけ)
・コント(共同体感覚・課題の分離)

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